以前、インスト曲で参考になりそうなものを5作品紹介しましたが、今回は、ポップスを5曲ピックアップします。
相変わらず個人的な趣向が強いので、その辺はご容赦いただきたいのですが、ポップスの曲にとって非常に重要な「ワンコーラスの構成」に注目しています。
今回も気楽に読んでいただいて、少しでも参考になれば幸いです。
1. Breathless / The Corrs
The Corrsは1990年に結成されたアイルランド出身のバンドです。
この曲は2000年にリリースされて、グラミーにもノミネートされました。
とにかくワンコーラスの流れが見事で、A-B-C構成のお手本と言っても良いでしょう。
その昔、ディレクター・プロデューサーの間で、「ヒット曲の方程式」という言葉が盛んに使われた時期がありました。
当時よく言われていたのが、売れる曲の構成は、
- Aメロの入りでつかみのインパクトがあって、
- Bメロで一旦落ち着いて、
- サビアタマにピークがくる
というもので、まさにこの曲はそれにピッタリと当てはまります。
一度聴いたら、強く印象に残りますね。
ヒット曲の定番パターンを研究するには、うってつけの楽曲です。
2. Almost Unreal / Roxette
Roxetteと言えば、80年代末から90年代にかけてヒット曲を連発したスウェーデン出身の男女デュオです。
1993年に公開された映画「スーパーマリオブラザーズ」に提供されたこの曲は、平歌+サビというシンプルなA-B構成ですが、コントラストのつけ方がとてもドラマチックで、サビアタマの盛り上がりは、聴く人の心を惹きつけるのに十分なインパクトを持っています。
余計なことはせずに、それでいて必要なポイントはしっかりおさえているというところに、何か職人魂のようなものを感じてしまいます。
Roxetteは、これ以外の楽曲もとにかくキャッチーで、どれも聴かせどころのポイントがはっきりしているので、売れるのも納得です。
Roxetteのベスト盤を買って研究すると、売れる楽曲のヒントがわかるかもしれません。
本当に、ヒット曲のツボを心得た人達だと思います。
3. Never Ending Story / Limahl
Kajagoogooを脱退したLimahlがソロとなって、1984年にリリースした同名の映画のメインテーマです。
「この曲はどうしてフェードインで始まっているのだろう?」と、ずっと疑問に思っていたのですが、調べてみてやっと謎が解けました。
フェードインで始まり、エンディングをフェードアウトにすることによって、映画のタイトルでもある「終わりがない」ことを表現しているらしいです。
この曲も、前述の「Almost Unreal」と同様にA-Bという構成となっています。
Aメロの入りが6度の跳躍で始まっていて、つかみのインパクトはバッチリなのですが、こちらのBメロは「サビ」という印象を受けません。
つまり、この曲には「明確なサビパートが無い」ということになります。
それでは、「サビとは一体何?」という疑問が湧いてくると思うのですが、野球で例えるなら、「タイムリーヒット」のようなものだ、と個人的に解釈しています。
塁上のランナーをホームに迎え入れて、得点に結びつける、というイメージですね。
そのような、「スカッとした気持ち良さ」が求められる気がします。
ちなみに、頭サビの楽曲の場合は、「先頭打者ホームラン」といったところでしょうか。
この曲のBメロは大変美しいコーラスパートで、期待感は高まるのですが、このままではランナーはホームに帰って来れない雰囲気です。
ところが、最後の「Never Ending Story〜」の短いワンフレーズで見事に締めくくって、スッキリと完結させています。
まさに、「技アリ」という感じです。
ワンコーラスが約40秒と、かなりコンパクトなつくりですが、計算し尽くされたメロディーラインと言えるのではないでしょうか。
4. Modern Girl / Sheena Easton
1980年に、スコットランド出身のシンガーであるSheena Eastonのデビューシングルとしてリリースされたこの曲は、全英で3位を記録し、翌年の全米デビューのきっかけとなりました。
彼女のハイトーンボイスは、それだけでかなり衝撃的なのですが、楽曲の方も負けず劣らず仕掛けが満載なので、紹介していきたいと思います。
A-B-C構成で、まずAメロがいきなり転調から入ります。
短いBメロでちょっと世界観を変化させた後、ブレイクを挟んでサビとなります。
この、サビ前にブレイクを挟むというのも、サビアタマを強調するための手法として、よく使われますね。
そして、サビでは畳みかけるようにリフレインのフレーズが展開されます。
作曲家・プロデューサーの割田康彦さんが、その著書の中で、「印象付けたいメロディーは繰り返せ」と力説しているのですが、この曲を聴けばその意味がよく理解できるでしょう。
割田さんの著書は、おすすめです。
今聴いても全く色褪せない、不朽の名作です。
5. 夏に恋する女たち / 大貫妙子
JPOPからも1曲ということで、この曲を選びました。
1983年の同名のドラマの主題歌で、作曲は大貫妙子さん、アレンジが坂本龍一さんです。
とても透明感のある楽曲で、大貫さんの声質がうまく生かされていますね。
構成は基本的にA-A-B-A形式で、ツーコーラス目はBメロの代わりに大サビを加えた、というパターンです。
ちょっと変則的な進行ですが、あくまで自然な流れをキープしているところが、とても素晴らしい。
このような形式の場合、Aメロはサビの役割も要求される訳ですが、しっかりとした印象的なメロディーで、この曲の根幹をつくっています。
もうひとつ注目したいのがアレンジです。
この曲のメロディーには終止感というものがまるで感じられないところを、とても巧みに処理されています。
さすが、坂本さんの職人技ですね。
特に、最初のワンコーラスが終わった後の繋ぎの部分や、大サビからAメロに戻るところの管楽器のフレーズは、「お見事」の一言です。
まとめ
今回も古い曲ばかりで申し訳ないな、と思いながら記事を書き進めてきました。
それでも、個人的には今聴いても新鮮なものばかりを選んだつもりなので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
曲の構成や全体のバランスは、ちょっと気を使うだけで仕上がりに大きな差が出るので、ぜひ参考にして、ご自身の作品で色々と試してみると面白いと思います。
次回もお楽しみに。