前回までの、「メロディーフェイク編」、「コード対応編」に続いて、ちょっとしたつなぎのフレーズにとても便利に使える「スケールユニット」を紹介します。
「スケールユニット」を使うことによって、
- リアルタイムの対応力の向上
- ブロックポジションからの解放
- スケールの羅列からの脱却
- アウトフレーズも簡単
といったメリットがあります。
- コードトーンを理解している
- 指板上の音を把握している
の2点がクリアーされていれば、誰でも簡単に使うことができるので、ぜひ最後まで読んで、試してみてください。
スケールユニットとは何か?
通常のスケールは、7音で構成されていて、その種類はとても多いです。
ところが、音を3音に限定すると、ほぼ以下の3パターンに集約されます。
3 notes per string で弾いていると、何となく気づいてしまいますよね。
⭐ WT(ホールトーン)ユニット
⭐ Dor(ドリアン)ユニット
⭐ Phr(フリジアン)ユニット
これに、ちょっと特殊な形の、
⭐ Hm(ハーモニックマイナー)ユニット
(Hmユニットは、上昇と下降の両方を使うためには4音の方が便利なので、4音のユニットにしています)
この4つを組み合わせると、全てのスケールを網羅することができます。
そして、「この音列をうまく使ってアドリブを弾けば、何とかなるんじゃないか?」と思い、僕はこれを「スケールユニット」と名付けました。
スケールユニットを使う手順
1)アンカーノートを見つける
まず、コードトーンやその他のトライアドの構成音、ターゲットノート、あるいは長く伸びているメロディー音といった、拠り所となる音を探します。
この、拠り所となる音のことを、「アンカーノート」と呼ぶことにします。
アンカーノートを見つけたら、スケールユニットの構成音のどれかがアンカーノート上に乗るようにセットします。
これで準備完了です。
アンカーノートさえ見つければ、そこを起点にフレーズをつくれるので、ブロックポジションから解放されます。
ポジションを考えずに済むと、気分的にとても楽になります。
2)フラグメントをつくる
フラグメントとは、直訳すれば「断片」という意味ですが、ここでは「4音で構成されるジャズの慣用句的なフレーズ」を指します。
ジャズでは、8分音符が基本となっているので、4音で2拍分です。
とても区切りが良いので、フレーズの最小単位として重宝されています。
もちろん、実際のフレーズの中では、音を伸ばしたり、休符を入れたりして、2音〜3音になっても全然構わないのですが、最初の段階では4音で考えておくと、応用させやすいです。
スケールユニットを使ったフラグメントのつくり方は簡単で、構成音に、低い方から1、2、3(Hmユニットは4まで)と番号を振って、1323、2231、3212などと組み合わせを考えていけば良いだけです。
フラグメントを形成すると、ひとまとまりのフレーズという印象が強くなるので、スケールの羅列から脱却できます。
このフラグメントの効果だけでも、スケールユニットを使う価値はあるでしょう。
3)フラグメントをアンカーノートに乗せる
それでは、実際にフレーズをつくってみましょう。
コードがCM7で、アンカーノートをEとします。
Dorユニットでフレーズは1323です。
アンカーノート上にいずれかの指を置いた状態で、フラグメントを弾いていきます。
1の音をアンカーノートに乗せると、
となり、♯11が入ったLydian風のフレーズになります。
2の音をアンカーノートに乗せた場合は、
で、これは普通のCメジャースケールですね。
3の音だと、
というオルタード7thのようなサウンドです。
どれが正解かなどとは考えずに、状況に応じて、自分が気に入ったものを使えば良いでしょう。
また、ここでもアプローチノートを加えて、
CM7、Dorユニット123、1 on アンカーノート=E
CM7、Dorユニット 312、3 on アンカーノート=E
といったフレージングも可能です。
アプローチノートは、しつこいぐらいに使い倒します。基本的な解説は、「メロディーフェイク編」を参照してください。
もう一つ、例を挙げてみます。
コードをCm7、アンカーノートはG、フレーズはDorユニットで3123だとどうなるでしょうか?
1の音がアンカーノートだと、
♮6を含んだDorianのフレーズです。
2の音を乗せると、
♭6の、AeolianやPhrygianといった雰囲気です。
3の音の場合がちょっと問題で、
と、マイナーコードに♮3が入ってしまいます。
音楽理論的には、これは完全にアウトなのですが、僕はこの可能性をできるだけ否定しないようにしています。
フラグメントのフレーズは音の流れがスムーズで、なおかつ音型としてのまとまり感が強いので、コードサウンドからの逸脱に対して許容度が大きい、というのが個人的な見解です。
もしサウンドが気に入らなければ、却下すれば良いだけの話なので、とりあえず試してみることにしています。
音楽では、試行錯誤がとても大切です。
スケールユニットを上手に使うコツ
1)つなぎのフレーズで威力を発揮
スケールユニットは、連結して長いフレーズをつくることも可能ですが、最も威力を発揮するのは、ちょっとしたつなぎのフレーズで使用する場合だと考えています。
基本的なパターンとして、フレーズをつくってみると、以下のようになります。
CM7、Phrユニット3312、2 on アンカーノート=G
Cm7、WTユニット1232、1 on アンカーノート=G
このように、アンカーノート2拍+フラグメントという形で練習すると、スケールユニットの感覚がつかみやすいでしょう。
リアルタイムでの対応力も、段違いに向上するに違いありません。
慣れてきたら、これまでに解説した、メロディーフェイクやターゲットノート、トライアドと組み合わせて、自由にフレーズを考えてみてください。
例えば、ペンタトニックオンリーのフレーズにちょっと加えるだけでも、ずいぶん雰囲気が違ったものになると思いますよ。
CM7、Dorユニット3212、3 on アンカーノート=G
CM7、Phrユニット213、1 on アンカーノート=G
実際のフレーズでは、必ずしもフラグメントの4音を全て弾く必要はありません。
2)アウト感を楽しむ
前述したように、スケールユニットを使ってフラグメントを形成した場合、コードから外れた音が含まれるケースが頻繁に起こります。
CM7、WTユニット1231、1 on アンカーノート=B
Cm7、Hmユニット1243、2 on アンカーノート=G
でも、これを排除せずに、楽しんでしまった方が、アドリブの幅が確実に広がると思います。
もし、どうしても収拾がつかなくなった場合には、アンカーノートに戻れば、いつでもインサイドに落ち着くことができます。
つまり、保険がかかった状態なので、思いっきりアウト感を楽しむことができます。
ただし、周りに怖い先輩などがいるときには、各自、自己責任で対応してください。
まとめ
スケールユニットという3音の音列を利用したアドリブの方法について、解説しました。
- アンカーノートを見つける
- フラグメントをつくる
- フラグメントをアンカーノートに乗せる
という簡単なステップで、
- リアルタイムの対応力の向上
- ブロックポジションからの解放
- スケールの羅列からの脱却
- アウトフレーズも簡単
と、大きなメリットが得られます。
これまで3回に渡ってアドリブの手法を解説してきましたが、どれも簡単で、アドリブに対するハードルを、かなり下げることができたのではないでしょうか?
でも、心がけて欲しいのは、簡単に使えるからこそ感覚を研ぎ澄ませて、演奏に集中するべきだということです。
もちろん、既存の方法を否定するものではありませんし、日々の、フレーズのストックを増やす努力も必要だと考えています。
ただ、初心者にとってアドリブをとっつきやすいものにするために、また、中級者以上にとってはちょい足しして世界を広げるために、選択肢のひとつに加えても損はないと思います。
次回もお楽しみに。